資金ショートが迫るなか役員全員で資金調達して倒産回避した話【実話】

資金ショートが迫るなか役員全員で資金調達して倒産回避した話【実話】

業績が悪化して資金繰りが厳しくなると、社内の雰囲気はだんだん悪くなります。

なんとなく居心地が悪いというか、事務所の空気が重いというか…。

資金繰りのことで頭がいっぱいになっている経営者の方はこういった雰囲気の変化になかなか気づかないと思いますが(それどころでは無い場合が多いので)、社員の方は別です。

経営者の方が考えている以上に敏感です。

目次

有能な社員ほど逃げるように辞めていく

社内の不穏な空気をいち早く察知するのが、仕事ができる有能な社員です。

本来、最も隠し通したい相手だと思いますが、隠し通すことは非常に困難です。

比較的早い段階で「この会社、もしかしたら結構ヤバイ状況にあるかも…」と察知されてしまい、気づかないふりをしながらも、水面下で就職活動をされてしまい、経営を立て直す大事な時期に辞められてしまう。

といったケースは少なくありません。

極稀に例外がある

会社がピンチになると、有能な社員から離れていくのはどこの会社でもよくある話だと思いますが、極稀に、そうはならないケースがあります。

「自分達が働いている会社は絶対に倒産させない!」という一体感が生まれることもあるのです。

この記事では、資金ショートを回避するために役員全員が一致団結して、クレジットカードのキャッシング枠や消費者金融で資金調達して、倒産回避したお話を紹介したいと思います。

月末の資金ショートが不可避となり、倒産の危機が迫る

最初に、このお話に出てくる企業の概要と登場人物をお伝えしておきます。

対象企業と登場人物の概要
  • 業種:小売業(生鮮小売)
  • 平均月商:9,000万
  • 役員構成:代表取締役社長(70歳)、専務取締役(社長の奥さん)、常務取締役(社長の息子さん)、執行役員(息子さんの友人×3名)

対象企業は長年地域に密着して生鮮小売を営んできましたが、大手企業のドミナント戦略(地域を絞って集中的に出店する経営戦略)の影響を受け、売上は下降の一途を辿り、売上は最盛期から30%以上落ち込んでしまいました。

業績が悪化する中、大手に対抗するために様々なマーケティング施策を行い、これ以上売上が低下しないよう努力を重ねていました。

追加運転資金の融資が突然打ち切られてしまった

そんなある日のこと。

いつものようにメインバンクに「仕入支払いがあるから追加で運転資金を融資して欲しい」と新規融資を依頼したところ、「社長、これ以上の追加融資は厳しいです。担保があれば再度稟議にかけることもできますが、今の状態では厳しいです」と言われ、融資を打ち切られてしまいました。

融資を打ち切られ、月末の資金ショートが現実味を帯びる

一度も返済が遅れたことが無いのに、しかもメインバンクから

  • 投資信託の購入
  • 定期預金
  • クレジットカードの申し込み
  • 社員・パートさんの口座開設

などの依頼があった時は率先して協力してきたのに、資金を必要としている時にまったく協力してくれない銀行の態度に、社長は激しい憤りを感じました。

とはいえ、担当者に怒りをぶつけても問題は解決しないので、月内にどれぐらいの支払いが発生するのか、経理と協力しながら計算してみました。

支払い額を調べた結果、

  • 既借入金の返済を全ストップ(元金と利息の両方)
  • 消費税・社会保険料のジャンプ

などの施策を行っても月末の資金ショートは避けられないことが判明しました。

従業員に支払う給料を1か月待ってもらうことができれば、資金ショートは回避できるのですが、従業員に「今月の給料は1か月待って欲しい」と伝えることを想像すると、従業員に反発されることは想像に難くありません。

従業員の大半はパートさんですし、そもそもドミナント戦略を展開している大手企業が積極的に「パート募集」と張り紙を出しているなか、給料の遅配でもしようものなら「出勤しない」、「辞めて他社(競合大手)へ行く」等と言われてしまいかねません。

仕入先へ一部ジャンプのお願いをしに行こうとも考えましたが、仕入先は大手企業ばかりで、こちらも決められた期日に支払いをしないと取引停止となり、今後、商品の仕入れが絶望的になります。

これ以上の銀行融資は不可能で、しかも社長は高齢のため、ノンバンクからも借りれません。
どこからも資金調達できず、八方ふさがりとなってしまいました。

「万策尽きたか…」とうなだれながらも、常務として働いている息子さんにも現状を伝えなければなりません。

社長は意を決して「恐らく破産するかもしれないから、覚悟しておいて欲しい」と息子さんに伝えました。

社長から「破産するかも」と告げられた息子さんは、すぐに役員全員を召集してミーティングを実施しました。

ちなみに、「資金ショートしたら破産しかないですよね【思考停止するから自己暗示は止めよう】」という記事でも解説していますが、「資金ショート=(イコール)破産」と考えている経営者の方は少なくありません。

全員で金を集めれば何とかなるのでは?

息子さんが役員全員を招集し、ミーティングしているところを傍目で見ていた社長は
「今から売上を上げよう等とはっぱをかけたところで、支払日に到底間に合わない。今更ミーティングしたところで何の意味も無い」と思っていたので、ミーティングの内容を聞かず、破産準備のため長年付き合いのある弁護士に相談するため、法律事務所へ車に乗って出かけていきました。

ところが、このミーティングは売上を上げようといった話ではなく、

  • 今現在、会社にどれぐらい現金があって、どれぐらい足りないのか?
  • 今現在の時点で各店舗のレジにどれぐらい現金が入っているのか?
  • 仮に、今月資金の都合がついたとして、来月は大丈夫なのか?
  • 今月だけ資金が回らないという事であれば、自分達で会社に金を貸してあげても良いのでは?

といった内容で、会社の資金繰りをストップさせないために協力できないか?ということを話し合っていたのです。

自分達で会社に金を貸して、倒産を回避しよう!という結論に至った。

社長の息子さんを中心にミーティングを行った結果、資金ショートを回避するために以下の案を実行しようという結論に至りました。

  • 社長個人の預貯金を拠出させてなお足りない資金は「約450万円」
  • 会社の役員は4人いるので、消費者金融で1人あたり100~120万ぐらい借りれば450万円を今日中にでも作れる
  • 審査の時間もあるので、キャッシング枠のあるクレジットカードを持っている人は、消費者金融で100万程調達した後にキャッシング枠で20~30万円ぐらい借りればOK
  • クレジットカードを持っていない人は消費者金融を回って、最低でも100万円借りることを目標に動く

「とにかく役員全員で金を作れば、450万ぐらいその日に作れる」ということで、駅前にある消費者金融が入居するビルに役員全員で向かいました。

なんとか目標額を集めることができた

同じ会社の人間が1日に3人も4人も同じ消費者金融の窓口に行くという、摩訶不思議な出来事が繰り広げられ、なんとか410万円を調達できました。

残りの40万円はキャッシング機能の付いたクレジットカードを持っている人がいたので、ATMでキャッシングして、450万円を集めました。

お金を集めた翌日、役員の方達は社長に「会社の資金繰りこのお金を使ってください。自分達に金利とかはいりませんので、このカード(消費者金融で発行されたカード)に返済をして貰えればそれで良いです」と言って、450万円とカードを渡しました。

社長はさっさと受け取って銀行に行ってしまった…

450万円の現金を受け取るまで、破産することしか考えていなかった社長でしたが、役員の方達が現金を手渡したら社長の表情は一変しました。

ほんの数秒前まで生気を失っていた社長の表情は、みるみる笑顔を取り戻しました。

「これで資金ショートしなくて済む!破産しなくて済む!本当にありがとう!」絶望からの復活でした。

ここで感動のやり取りが起こるのかと思いきや、社長は「取引先に振り込んでくるから、このお金を持っていくよ、ありがとう!」といって、さっさと銀行に行ってしまいました。

私もその場にいましたが、「それはいくらなんでも素っ気なさ過ぎでは…」と感じました。

かくして、倒産は回避された

役員の方々が金策して450万というお金を工面してきたことで、倒産を回避できました。

このように資金を集めたケースは非常にレアだと思います。

代表者が会社にお金を貸しつけるのはよくあることですが、株主でもない役員が会社にお金を貸すのは、レアケースです。

この会社の役員は全員、社長の息子さんの地元の同級生なので、役員全員付き合いも長く、子供の頃から家族ぐるみでの付き合いをしていたという背景もあり、「会社のために全員で金を借りよう!」という結論に至った訳ですが、通常はあり得ません。

この会社のその後についてはご想像におまかせしますが、とにかくこの会社には「役員の力を結集して、なんとしても持ちこたえてやる!」という一体感というか、妙なグルーブ感がありました。

資金ショートするとどうなる?【何もしないと倒産するけど回避可能】」という記事でも解説していますが、資金繰りが厳しいという時に何の行動も起こさないと会社は倒産しますが、行動を起こすことで倒産は回避可能です。

こういったことが推奨されるかどうかの言及は避けますが、このように、ピンチを乗り切ろうとするケースもあるのです。

ちなみに、この記事は倒産を回避したというお話でしたが、企業の倒産事例をまとめた本を読んでみたいという方は、以下の記事で倒産の事例をまとめた本を紹介していますので、是非どうぞ。

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