事業譲渡の契約を専門家に任せず、当事者同士で契約してトラブルが発生したケース

何年か前に、クリニックを10店舗ほど運営している某医療法人の理事長からご相談を受けた時の話です。

なんでも、数年前に仲の良い友人に利益の出ているクリニック1店舗を事業譲渡したらしく、それがきっかけで資金繰りが苦しくなったというのです。

目次

始まりは友人からの「独立したい」という相談がきっかけ

独立願望の強い友人に「自分のクリニックをどうしても独立開業したい!でも、開業資金が無いからどうにもならない…。」と相談を受けたことが全ての始まりです。

理事長は「友人なら、きちんと営業してくれるだろう」と思い、立地もよく、利益も出ているクリニック1店舗を事業譲渡したのです。

譲渡代金は毎月の売上から分割決済という非常に良い条件です。

理事長の友人はまとまったお金を用意することなく、独立開業に成功したのです。

開業して、最初のうちは良かったが…

開業当初は患者さんの評判もよく、患者さんの引継ぎも上手くいき、売上も順調に伸びていきました。

そのため、毎月の事業譲渡代金は遅滞なくキチンと支払われ、理事長も「仕事熱心で、真面目な友人に事業譲渡して、ほんとうに良かった。」と思ったそうです。

近所に新しいクリニックが開業してから状況は一変

滑り出しこそ順調ではあったのですが、近所に新しいクリニックが開業してから状況が変わりました。

患者さんは徐々に離れていき、売上が下降の一途を辿ってしまい、クリニックを維持するのが難しくなってきたのです。

ここまでは店舗を運営している方からしたら、「よくある話ですね」と感じるかと思いますが、問題はここからです。

患者さんが徐々に減少していくにつれて、様々な支払いが遅れるようになってきたのです。

最初は事業譲渡代金の支払いが滞るようになりました。

友人ということもあり、理事長も「譲渡代金は後でもいいよ」と伝え、スタッフやクリニックの家賃、リース料、医薬品の支払いを先にするように伝え、しばらくの間はそれで凌ぐよう、友人に優しく伝えていました。

「友人に譲渡したクリニックが盛り返すと良いな」と思ったいた束の間、なんと、友人が様々な支払いを溜め込んだまま、夜逃げしてしまったというのです。

買掛債務を残したまま逃げてしまった

理事長が友人に電話しても一切連絡が取れず、家に行ってももぬけの殻。

実家に連絡しても行方知れずと、完全にバックレ状態。理事長は途方に暮れてしまいました。

「せめて、私の電話ぐらいは出て欲しかった。譲渡代金を払ってくれないぐらいで責めやしないのに…」

信じていた友人に逃げられたというショックで、理事長は鬱になってしまいました。

友人が逃げた後、理事長の元に様々な請求書が届くように

友人が逃げて数ヶ月経った頃でしょうか、理事長の元に様々な請求書が届くようになりました。

リース会社や医薬品卸会社、延滞していた家賃等の請求が、事業を譲り渡した理事長宛てに請求がくるようになりました。

最初のうちは気にも留めず、「私には関係ない。支払い請求は逃げた友人にして欲しい」と突っぱねていたのですが、よくよく原因を調べてみると、事業譲渡手続きに穴があり、

債権者から「踏み倒したヤツの支払いを払え!」と訴訟を起こされ、支払い命令がきてしまったのです。

もう、踏んだり蹴ったりです。

きちんとした手続きを踏んで事業譲渡をしていれば、こういったケースであっても「ウチは一切関係ないので、逃げた知人から回収してくれ」と突っぱねることができますので、そこで話は終わります。

しかし、事業譲渡手続きに穴があったために、理事長が責任を負う事となり、請求がきてしまったのです。

債権者から訴訟を起こされ、裁判で争ったのですが、裁判に負け、支払い命令を受けました。

それも複数の債権者から。

あちこちから○百万円の請求が来てしまい、それがきっかけで資金繰りが悪化してしまったのです。

専門家に依頼せず、身内だけで手続きしたのが失敗の要因

一連のお話を聞き終わった後、筆者は理事長に次のような質問をしました。

「なぜ、事業譲渡の手続きを専門家にチェックしてもらわなかったのですか?弁護士に契約書を作ってもらい、権利関係をきちんとしておけば、夜逃げした方の支払いなんて負わなかったのでは?」

筆者の質問に、理事長は次のように答えてくれました。

「全く知らない方に事業譲渡をするなら、顧問弁護士に相談して、手続きも全てやってもらったと思います。でも、友人ですし、そこまでキッチリ契約する必要もないですし、多少費用もかかるので、ネット上にある情報や書式だけで、自分達だけで契約しました」と言ってました。

理屈は理解できなくもないのですが、やはり、こういった経費をケチってしまうと、後々取り返しのつかない事になりかねません。

権利関係を明白にしなければならないような事は、やはり、専門家である弁護士の先生に相談した方が良いのは間違いありません。

帰り際、「同じ釜の飯を食った仲なので、まさかと思ったのですが、お金の問題うんぬんより、一言相談して欲しかった。付き合いの長い私からも逃げたという事が悲しくてなりません。」と言ってました。

親しき中にも礼儀あり、契約関係は必ずリーガルチェックを

気のおける仲であっても、こうした権利関係が絡む事は、専門家にチェックしてもらい、お互いに禍根を残さないよう、きちんとした手続きをしなければならない好例だと思います。

弁護士が関与していれば、このような問題に発展するような事はまずありません。

信用できる友人であっても、後々トラブルにならないよう、事業譲渡手続きは弁護士によるリーガルチェックを必ずするようにしましょう。

それにしても、仲の良い友人に裏切られるのはショックですよね。

事業譲渡契約は、専門家に手続きしてもらうのも大事ですが、以下の記事でも紹介している事に気を付ける必要があります。

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