事業再生に取り組むようになったきっかけ

2009年2月、群馬県にある創業24年の加工食品会社が資金繰りに行き詰まり倒産。

あなたが普段何気なく読んでいる新聞の一角に、とても小さな記事で、上記のような見出しが掲載されていました。「倒産」、嫌な響きですよね。経営者であれば絶対にしたくないのが「倒産」です。

この記事をあなたが見つけたらどのように感じますか?正直な感想として「あっそう」「だから?」「ふ~ん」というような感じだと思います。私もそう思います。

超有名な一部上場企業が倒産したのであれば、「え~っ、うそ~」「あの○○社が倒産?」等と驚くでしょうが、名もない中小企業が倒産したところで、話のネタにもなりません。

倒産した会社と取引があれば「売掛金が回収できない」等と考えたりするでしょうが、そのような理由が存在しなければ、気にも留めないような話です。

会社の倒産などそれこそありふれた話ですから驚く必要すらないのです。1日も経ってしまえば忘れてしまうようなニュースです。

しかし、これが身内の話であればどうでしょう?人事だと思えませんよね。実は、上記の見出しは私の目の前で起こってしまった出来事なのです。

目次

倒産した義父の会社

義父の会社は群馬の下仁田で24年間、こんにゃくの製造・販売業を営んでおりました。元々、こんにゃく粉の加工・卸売をしており、その当時は年商20億前後あったそうです。

こんにゃく粉は相場制で価格変動が激しいため、こんにゃく粉の卸売を止め、こんにゃくの製造・販売に路線を切り替えました。以降、売上は4~5億の間を順調に推移していたのですが、ピークを境に売上は下降路線の一途をたどり、最終的には6,000万円まで売上が落ち込んでしまったのです。

義父が私に相談して来た時は大口の取引先に取引を打ち切られ、とても続けることができないような状況下に追い込まれてから、ようやく私に相談してきました。

私がこの家に来たのが2007年9月、決算書を私に見せてくれたのが2008年12月、最早救いようのない所まで来てしまったのです。

あまりにも低すぎる流動比率

どれぐらい救いようがなかったのか一つの目安があります、流動比率です。流動比率を見ればどれぐらい資金繰りが苦しいのかすぐにわかります。

流動比率とは、 流動資産÷流動負債×100= 流動比率(%) で求めることができる、財務安全指標の一つです。比率が高ければ高いほど、資金繰りは楽になります。120%近くあれば、問題ありませんが(若干苦しいかもしれません)、150%や200%あれば、資金繰りに苦しむ必要がなくなってきます。

義父の会社は流動比率が10%を切っていました。10%と言っても、使えもしないゴミのような在庫を無理やり計上した結果の数字ですから、実質3%を切っていたと言っても過言ではありません。

通常、100%を超えていないとかなり厳しい資金繰り状況だといえます。資金繰りに余裕を持たせたいのであれば120%~150%を目標に頑張っていきたいところです。200%あれば言うことありません。

この流動比率が3%切るということはどういう事か?具体的な数字を出すと、流動負債(買掛金、短期借入金)6,000万円弱に対して、流動資産(現金・預貯金・手形・売掛金・在庫等)が200万円あるかないか…。苦しさがお分かり頂けましたでしょうか。

見栄やプライドを守ろうとする経営者は倒産回避が難しい。

「もっと早く相談してもらえば、方法があったのに…」悔やんでも悔やみきれません。私がどんな仕事をしているのか知っているのに、何の相談もなしに、ひたすら自分の思うままに突き進んでいました。

ここまで来てしまったらどうしようもないのですが、せめて、どうして黙っていたのか知りたかったので、あえて聞いてみました。そうしたら、義父の口からはこのような返事が返ってきたのです。

「借金が多いなんて事を知られたら、何となく恥ずかしいから…」「借金地獄に陥った事を娘の旦那に知られて余計な心配をかけさせたくなかったから」という答えが返ってきたのです。

本人からしたらよかれと思って黙っていたのでしょうが、私に相談して貰えれば事業を守るのか、自宅を守るのかという選択肢を選ぶ事ができたのに…これには妻も呆れ返っていました。

「競売」を恐れてせっせと借金を重ねる経営者

ここまで経営が苦しいのになぜ続けてきたのか、私はどうしても知りたかったので、あえて義父に聞いてみました、そうすると義父はこのように答えました。「住む家が無くなってしまうから、銀行の返済だけは遅れずに続けてきた」と。

金融機関への返済が滞ってしまったら競売にかけられてしまい、すぐに家を出る事になるから、どうしてもそれだけは避けたかったとの事でした。まあ、ありがちな返答ですね。しかし、意外とこのように思い込んでいる経営者の方は少なくありません。

通常、銀行への支払いが遅れたからといって、直ちに競売をかけられてしまう事はありません、それに返済が遅れたからといって、90日間は全く問題ありません。

延滞債権扱いになり、督促状が届きますが、直ちにどうこうなる訳ではありません。仮に90日を過ぎたからといっても、直ちに競売にかけられてしまう訳でもありません。

それでは90日を過ぎてしまったらどうなってしまうのか?延滞して90日が過ぎると「金融事故扱い」になってしまいますが、この段階でも交渉できるので慌てる必要などありません。

このような仕組みを全く知らないため、「自宅を競売にかけられないようにする為」と、一生懸命借金を重ね、せっせと銀行に返済していました。消費者金融、個人名義のクレジットカードのカードローンを限度額まで借りては銀行に返済し、足りなくなったら、親戚に借りたり、年金を担保にお金を借りたり…

借金のフルコースに嵌ってしまったのです。

何のために働いているのか分からない

出口がまったく見えず、過剰な債務を抱え込んでしまい、債務圧縮する方法を知らないまま、なんとか頑張ってやりくりしてきた経営者である義父。とらえようによっては美談のように聞こえるかもしれません。本人からしたら、必死の努力で家族と家を守ってきたのでしょう。実際義父の働きぶりを見ていただけに、必死の努力で頑張っていたと思います。

食事中、たまにですが「何のために頑張って働いているのか分かりゃしない」と笑いながらこぼしていましたが、この言葉に全てが収斂していると思います。

しかし、厳しい言い方ですが、こうなってしまったのは誰のせいでも無く、経営者の落ち度と言わざるを得ません。本人からしたら悲劇の渦中にあり、長年資金繰りに悩み続けた被害者のように振舞うかもしれません。実際にそのような言い訳ばかりしていました。

しかし、いくら過大な債務を抱え込んでしまっても、負債は圧縮する事ができます。さらに切り離すことも可能です。債務に関する正しい知識を学び、行動を起こすことによって、負債は圧縮する事が可能なのです。

借金っていうのは地獄なんだよ!

資金繰りが行き詰ったときに、妻と私に怒鳴りつけてきた言葉があります。

「借金っていうのは地獄なんだよ!」と。何も知らない人達からしたらそう思うかもしれません、実際に借金を苦に自殺する人がいるぐらいですから、そのように思い込んでいる人達からしたらそうなのかもしれません。

でも、ほんとに借金は地獄なのでしょうか?お金を借りたら地獄なのでしょうか?私はそうは思いません、何が地獄なのか皆目見当もつきません。

まれに安っぽい三流ドラマで「連帯保証人になって〇億円の借金を抱えてしまった」など、悲劇のヒロインのような役がでてきますが、ほんとにそこまで悲劇なのでしょうか?

私はそうは思えません、返す事が不可能な金額の借金を背負っても、なんとも思いません。返すことが不可能と分かっているものを、なぜ、そこまで思いつめるのか、理解できないからです。悩んでいる理由も全く理解できません。

お金を返せないからといって、債権者から拷問を受けますか?お金を返せないからといって、絞首刑にされますか?何にもされません、いつもと変わらない日常がくるだけです。

もし、あなたが、資金繰りに苦しんでいて、過大な支払い負担で苦しんでいるのであれば、即刻考え方を改めて下さい。必要以上に悩む必要はありません。自分で自分を追い込まないで下さい。意味のない行為です。

手形が不渡りになりそうで、悩んでいる方も同じです、不渡りを回避する方法などいくらでもあります。仮に不渡りになったからといって、どうにかなるわけでもありません。あなたが諦めなければ、いくらでも復活する事が可能です。

誰に相談したらよいのか分からない

長年経営を続けてきた経営者の方達は、経営のプロです。マネジメントに関する知識・経験も豊富だと思います。しかし、多くの経営者様は債務の事となると、素人同然の方が少なくありません。

利益率が悪化してくると、コスト削減の一環として、取引先に仕入額を値切ろうとしたり、ワークシェアリングだといって、社員の方の生活を考えず、社員の出勤日数を削り、経費を限界まで削ろうとする、、、

その一方で、債権者である取引金融機関から「自宅を担保に入れさせて下さい」とか、「返済条件を見直す際に金利を3%上げさせてもらいます」という、会社にとって(というより、経営者にとって)すごく不利な条件をつきつけられても、ハイハイと相手の言いなりになってしまう方のなんと多いことか。

ちょっと交渉するだけで支払い負担が軽くなるのに、そのような事を全く知らないために、必要のない苦労を強いられている経営者は少なくないのです。

このような方達の相談を受けるたびに、「一人で苦しまないで、もっと早く相談してくれたら、楽になる方法はあるのに・・・」と思うようになりました。相談者様の多くは、相談を受けた際に「誰に相談したらいいのか分からなかった」と言って、問題を放置している方が多く見られました。

顧問契約を締結している専門家の方に相談しても「破産するしかないです」と言われる始末。義父も同様に、倒産を決意した時に、「誰に相談したらいいのか分からなかった」と言って、うなだれていた姿が今でも頭に残っています。

ひょっとしたら、誰に相談したらよいのか分からないまま、苦しみながら経営している会社が、世の中にはまだまだたくさんあるのではないか?日増しにそのような考えが強くなり、飲食店・小売店支援業務を一切やめ、倒産しそうな企業の支援に乗り出したのです。

『倒産という魔の手から一人でも多くの経営者を救いたい』という強い信念をもち、この倒産劇を境に、事業再生コンサルタントとしてやっていく事を決意したのです。

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