ファクタリングを利用すれば資金繰りは改善する?【買取手数料次第】
売掛金の回収サイトが長いので、常に資金繰りが苦しいです。
ファクタリングを利用して売掛金を現金化すれば資金繰りは良くなりますか?
この記事では、こういった疑問にお答えします。
- 資金繰りが改善するかどうかは手数料次第【結論】
- 買取手数料が高いファクタリングを利用して起こること
- 買取手数料が高いファクタリングを利用して資金繰りが悪化した事例
- ファクタリングの利用を考える前に検討すべきこと3つ
なお、本記事の筆者は、2009年から現在まで中小企業の資金繰り改善コンサルタントとして活動しており、年商数百万の個人事業主から年商10億円以上の企業まで、幅広く対応してきました。
お客様の中にはファクタリングを利用している方もいて、
「ファクタリングを利用したら資金繰りがより厳しくなった。この先どうすればいいのか?」といったご相談を頂くことが少なくありません。
こういった経験を元に、本記事では、ファクタリングを利用すれば資金繰りは改善するのかどうか、お客様の事例を交えながら詳しく解説していきます。
ちなみに、結論から言うと、ファクタリングを利用すれば資金繰りが改善するかどうかは手数料次第です。
資金繰りが改善するかどうかは手数料次第【結論】
ファクタリング利用すれば資金繰りが改善するかどうかは手数料次第です。
買取手数料が低ければ資金繰りは改善しますし、手数料が高ければ立ち行かなくなるレベルで資金繰りは悪化します。
買取手数料が低ければ資金繰りは改善する
基本的な前提として、ファクタリングを利用すると利益率は悪化します。
ただ、利益率が悪化するといってもあくまで程度の問題なので、手数料が低ければ悪化の程度は低いです。
- 手数料が低い → 利益率への影響は小さい
- 手数料が高い → 利益率への影響が大きい
利益率が悪化するとはいえ、通常、入金されるまで30~60日ほど待たないと入金されない売掛金をファクタリングを利用すると即時現金化できるので、資金繰り的には楽になります。
売掛金をすぐに現金化できるということは、買掛金の支払い日よりも前に売掛金が入金されますので、資金繰りは改善します。
つまり、ファクタリングを利用しても利益がきちんと残るのであれば、資金繰りは改善すると言えます。
買取手数料が高ければ資金繰りは悪化する
一方で、買取手数料が高いファクタリングを利用すると資金繰りは悪化します。
買掛金の支払い日よりも前に売掛金が入金されるとはいえ、手数料が高ければ利益率は悪化しますので、近い将来、資金繰りは確実に悪化します。
特に、手数料が20%を超えるようなファクタリングを利用すると、粗利の大部分を喰われますから、粗利率が50%ぐらいある業種でもない限り、資金繰りは確実に悪化します。
買取手数料が高いファクタリングを利用すると実際どうなってしまうのか、次のパートで詳しく解説していきます。
買取手数料が高いファクタリングを利用すると起こること
買取手数料が高いファクタリングを利用して起こることは段階ごとに異なります。
- 第1段階:売掛をすぐに現金化できるので資金繰りが改善したと感じる
- 第2段階:2~3か月継続的に利用すると資金繰りが苦しくなる
- 第3段階:ファクタリングをやめたくてもやめれない状態に突入
上記順に解説します。
第1段階:売掛をすぐに現金化できるので資金繰りが改善したと感じる
ファクタリングを利用すると買掛金の支払日よりも前に売掛金が入金されるようになるので、一時的に「資金繰りが改善した」と感じるようになります。
しかし、これはあくまで一時的なことです。
買取手数料が高いファクタリングを利用すると粗利の大部分を喰われますので、その場の資金繰りは回っても利益はほとんど残りません。
買掛金の支払いが済んで販管費の支払いをする時になって「普段よりも現金が減っている」ことに気付きます。
第2段階:2~3か月継続的に利用すると資金繰りが苦しくなる
2~3か月ほど継続的にファクタリングを利用するようになると、売上は維持しているのに現金が異常に減っていることに気付きます。
運転資金にゆとりがあれば資金繰り的にはなんとかなると思いますが、ゆとりがなければ、
- 事務所・倉庫の賃料が払えない
- 社会保険料を納付できない
- 給料の支払いができない
などの弊害が顕在化します。
この状態になると、ほとんどの方は「買取手数料が高すぎて売上を上げても利益が残らない。利用すればするほど赤字になるので、ファクタリングをやめたい」と考えるようになります。
でも、手元資金にゆとりがなければファクタリングをやめたとたん買掛金の支払いができなくなるので、運転資金を調達しない限りやめたくてもやめれなくなります。
第3段階:ファクタリングをやめたくてもやめれない状態に突入
ファクタリングをやめたいと思っても、運転資金がなければやめたくてもやめれません。
しかも最悪なことに、資金繰りは日を追うごとに悪化します。
売上を上げても利益が残らないのですから、現金は加速度的に減少します。
どこかでまとまった運転資金を調達できなければ、倒産まで秒読み段階となります。
この段階まできてしまうと、数か月持たない場合がほとんどです。
ただ、状況次第にはなりますが、やめる方法は一応ありますので、興味がありましたら別記事の「ファクタリングをやめたい!【現役コンサルがやめ方を解説】」をどうぞ。
以上が買取手数料が高いファクタリングを利用して起こることになります。続いて、買取手数料が高いファクタリングを利用して、資金繰りが悪化したご相談事例を紹介します。
買取手数料が高いファクタリングを利用して資金繰りが悪化した事例
買取手数料が高いファクタリングを利用して資金繰りが悪化したご相談事例を下記の流れで紹介していきます。
- ご相談者様の概況
- ファクタリングを利用するきっかけ
- 手数料が高いファクタリングを利用したことで資金繰りが悪化
- 粗利が手数料で消え、販管費で毎月赤字に
- 半年間で喪失したキャッシュは1,200万円
上記順に解説します。
ご相談者様の概況
ご相談者様の概況は下表のとおりです。
ご相談者様の概況 | |
---|---|
業種 | 建築・建設業 |
年商 | 2億(平均月商1,700~1,800万円) |
粗利率 | 17%~23%で推移 |
販管費 | 年間4,200~4,400万円(平均350万円) |
営業利益 | ゼロ |
経常利益 | ▲300万円(既借入金の利息) |
補足説明 | 銀行融資はリスケジュール中で新規の資金調達はできない。 売上の50%は大手企業からの下請けで、残りの50%は地元企業や個人客からの請負 |
ファクタリングを利用するきっかけ
ファクタリングを利用するきっかけは下記のとおりです。
「仕入れ資金の支払いがどうしても足りないので、資金調達方法を探していたら売掛債権を買い取ってくれるファクタリングという資金調達方法があることを知った。
ネットでファクタリング会社を調べて申し込んだところ、1,000万円の売掛を手数料20%で買取可能と提示された。
手数料が高いと思ったけど、仕入の取引先が大手なので、支払いのジャンプを申し出ようものなら仕入れをストップされて現場が動かなくなると思い、ファクタリングを利用して仕入れ資金をまかなった。
ファクタリングで売掛金を現金化した時は、「仕入れ資金を支払日に払えて助かった」と思ったようですが、月末に近づくにつれ、普段残るはず現金が残らないことに気づきます。
手数料が高いファクタリングを利用したことで資金繰りが悪化
買取手数料が20%のファクタリングを利用したことで、普段残るはずの利益が残らなくなるので、資金繰りは急速に悪化しました。
ご相談者様は1,000万円の売掛金を手数料20%で売却しているので、本来残るはずであった粗利益が残らなくなりました。
ご相談者様の会社は、粗利率が平均17~23%なので、買取手数料20%のファクタリングを利用してしまえば、粗利は無くなります。
粗利が無ければ毎月の販管費はまかなえなくなるので、事業を続ければ続けるほど販管費の分だけ赤字になります。
粗利が手数料で消え、販管費で毎月赤字に
買取手数料が高いファクタリングを利用したことで粗利が無くなり、販管費がまかなえなくなり、赤字になってしまいました。
粗利率と手数料が同程度だと事業継続は不可能
基本的に、下記のような状態であればファクタリングを利用しても問題ありません。
- 粗利率が高い(ファクタリングを利用しても十分利益が残る)
- 粗利率は低いがファクタリング手数料が低いので採算が合う
しかし、ご相談者様のように、粗利率と手数料が同程度だと販管費がまかなえなくなるので、事業継続は不可能になります。
手数料で消えた200万円をどうやって捻出するか苦しむことに
ファクタリング利用前は粗利益で350万円の販管費を支払えていましたが、買取手数料が高いファクタリングを利用したことで200万円足らなくなり、資金繰りは急速に苦しくなりました。
ちなみにこの時は、個人の預金から200万円補填したので、この月の販管費の支払いは遅れることなくできたとのことですが、資金繰りが苦しくなると日が経つのは早いです。
気が付くと、仕入れ資金の支払い日がやってきます。
翌月もファクタリングを利用することに
運転資金が無いので、翌月もファクタリングを利用することになりました。
再度ファクタリング利用するということは、再度何かしらの方法で200万円補填しなければならなくなります。
ファクタリングを利用している間は、毎月200万円補填しないと事業継続できなくなるのです。
ちなみに2か月目になると、さすがに個人の預金で補填するのは難しくなり、社会保険料や事務所家賃の支払い遅れるようになりました。
半年間で喪失したキャッシュは1,200万円
2回目のファクタリングを利用した後、「ファクタリングをやめたい」と考えたそうですが、3~4回ほど利用する頃には、仲の良い取引先に支払いを待ってもらったり、地元の知人からお金を借りるなどして資金繰りが回っていたので、
「やめたいけど、苦しいながらもなんとか回っているから、売上を上げればなんとかなるかも」と考えるようになり、知人や取引先の協力を得ながら流れに身を任せていました。
しかし、こんなことは長くは続きません。
知人や取引先のお金は有限です。
2回ぐらいは協力してくれましたが、3回目ぐらいになると「これ以上は難しい」と言われたそうです。
ファクタリングを利用してから半年後、筆者のもとへ相談に来られました。
相談を受けた時には「地元の知人からお金を借りたり、仲の良い取引先に支払いを待ってもらったけど、もう限界です。これ以上はお金を工面できません」と、完全に行き詰った状態でした。
半年間で負担した手数料負担は1,200万円です。
買取手数料が20%もするようなファクタリングを利用せず、10%以下のファクタリングを利用していれば、ここまで状況が悪化することはなかったのでは?と思わざるを得ません。
手数料が高いファクタリングを利用すると資金繰りは改善するどころか倒産一直線なので、ファクタリングの利用を検討する時は、手数料の許容範囲を把握したうえで検討するようにしましょう。
以上、ご相談事例の紹介でした。続いて最後に、ファクタリングの利用を考える前に検討すべきことを解説します。
ファクタリングの利用を考える前に検討すべきこと3つ
ファクタリングの利用を考える前に検討すべきことは下記3つです。
- ファクタリングを利用しなくても資金繰りをうまく回せないか?
- 手数料を負担しても利益は残るか?
- 取引先はファクタリングに寛容かどうか?
上記のとおり。
ファクタリングを利用しなくても資金繰りをうまく回せないか?
ファクタリングを利用すると利益率が悪化するので、利用しなくても資金繰りをうまく回せないか、まずは検討すべきです。
具体的には、
- 仕入(買掛)支払いを少しでも遅らせることはできないか?
- 売上(売掛)入金を少しでも早めることはできないか?
- 現金払いの経費を後払い(請求書払い)に変更できないか?
- 融資で資金調達できないか?
などの施策です。
例えば、下記施策を同時に行えば、20日縮めることができます。
- 買掛金の支払い期限を10日長くしてもらう
- 売掛金の回収期限を10日早めてもらう
仮に、買掛と売掛を15日ずつ縮めることができれば、30日縮まります。これだけで資金繰りはかなり改善します。
買掛金の支払いをカードで払うことが可能
もし、仕入先(買掛先)との交渉が難しければ、買掛の支払いをカードで払う方法も考えられます。最近は請求書をカードで払えるサービスがあるので、カード払いを利用することで支払いを最大60日延ばせます。
利用にあたり3%~4%の手数料がかかりますが、ファクタリングと比べて負担は少ないです。
支払い.com:手数料4.0%、支払延長期間60日(クレジットカード老舗のクレディセゾンと共同運営) - labol(ラボル) カード払い:手数料3.0%~3.5%、支払延長期間60日(カード会社大手オリエントコーポレーションと共同運営)
- INVOYカード払い
:手数料3%、支払延長期間60日
詳しくは別記事の「請求書カード払いサービス4選【取引先への支払いをクレカで後払い】」をどうぞ。
後払いサービスの活用を検討
他にも、細かい経費の支払いを後払いできないか、検討すべきです。
手元資金にゆとりがあれば現金払いでもいいと思いますが、厳しい時は極力、後払いできるものは後払いにすべきです。
ちなみに、下記のような支払いは全て後払い可能です。
- 旅費交通費(宿泊費、新幹線・航空券)
- 消耗品・事務品費(Amazonビジネス、アスクル)
- 車両費(高速道路料金・ガソリン代)
- 新聞図書費(Amazonビジネス・honto)
詳しくは別記事の「法人・個人事業主向け後払いサービス7選」をどうぞ。
融資で資金調達できないか?
ファクタリングは資金調達コストが大きいので、極力、融資を利用すべきです。
銀行融資が難しい事業者でもビジネスローンやABL(売掛金担保融資)であれば利用できる可能性があるので、資金調達コストが低い方法を模索するといいですよ。
手数料を負担しても利益は残るか?
ファクタリングの利用検討の前に、手数料を負担しても利益が残るかどうか、きちんと把握しておくべきです。
筆者のもとへご相談に来られる方の大半は、買掛先の支払いができないという焦りから、見切り発車的に利用してしまった方が少なくないですが、利用前にきちんと利益計算をしていれば、「手数料を〇%以上払うと赤字になるので、利用するなら〇%以下」といった判断がつきます。
判断がつかない状態で利用すると取り返しがつかなくなります。利益が残るかどうかはきちんと把握すべきです。
取引先はファクタリングに寛容かどうか?
意外と多いのが、「取引先にファクタリングを利用していることがバレたら、資金繰りに困っていると思われて取引を打ち切られる」と思い込んでしまい、手数料の高い2社間ファクタリングを利用しているケースです。
取引先にファクタリング利用を相談してみると、意外とそのようなことは無く、3社間ファクタリングを利用できるケースがあります。
特に取引先が中小企業の場合、3社間ファクタリングを利用しても何とも思われないことがよくあります。
取引先が上場企業などの大手の場合、そのあたりの融通はききませんが、中小企業であればけっこう融通がきくので、相談してみるといいですよ。
公共事業や介護・医療関係は利用がスムーズ
公共事業や介護・医療関係の場合、3社間ファクタリングは普通に利用できます。
地方自治体の委託事業でも、3社間ファクタリングは利用できます(自治体の担当者が資金調達できるよう尽力してくれるケースがほとんどです)。
ですので、時間的にある程度ゆとりがあるなら、取引先がファクタリングに寛容かどうか確認すべきです。
3社間ファクタリングは申し込みから契約完了まで1~2週間かかるので、利用するなら時間にゆとりを持つといいですよ。
まとめ
以上、ファクタリングを利用すれば資金繰りは改善するかどうかについて解説しました。
ファクタリングを利用して資金繰りが改善するかどうかは買取手数料次第です。
買取手数料が20%~30%もするようなファクタリングを利用すれば、資金繰りは急激に厳しくなり、倒産一直線です。
買取手数料が低ければ多少利益率は悪化しますが、資金繰り的には楽になります。
いずれにしても、ファクタリングは融資と比べて資金調達コストが大きいので、利用を検討する際は手数料を考慮したうえで資金繰りのシミュレーションを行い、そのうえで利用するしないかを決断するといいですよ。